工房訪問記|vol.1 一 hashime 小林研哉さんの箒づくり

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このたびKENOHIでもお取り扱いさせていただくことになった一 hashimeさんの箒。

掃き心地はもちろん、佇まいが美しく、思わず飾っておきたくなる箒です。
今回はその作り手である箒職人・小林研哉さんを訪ね、静岡県袋井市の工房へ伺いました。


ホウキモロコシの畑から

工房ではお話を伺いながら、材料となるホウキモロコシの畑や、
箒が形になっていく製作の様子を見せていただきました。

小林さんは、材料の栽培から収穫、製作まで、すべての工程をご自身で担われています。

ホウキモロコシは4〜6月ごろに種を蒔き、約2ヶ月半で収穫の時期を迎えます。
約五反の畑をおひとりで管理されているため、夏は草刈りや収穫で毎日畑へ。

「収穫→脱穀→天日干しの工程は刈ったその日のうちに行う必要があり、
一日にできる量には限りがあります。収穫のタイミングを逃さないよう、
種まきの時期をずらすなど工夫しています。」

使用されるのは「黒種」と呼ばれる品種。
穂先がしなやかで掃き心地がよい品種で、お師匠さんから受け継いだ種を
無農薬で大切に育て、毎年少しずつ増やしているのだそうです。

伺った日はちょうど収穫がひと段落した頃。
工房には天日干しされたホウキモロコシが積み上げられ、
い草のような爽やかな香りがいっぱいに広がっていました。
工房に入るやいなや、思わず深呼吸。なんとも癒されるひとときでした。


「一 hashime」の由来

小林さんは、籠や箒をつくる職人だったお祖父さまの影響で、この道に興味を持たれたそうです。
ブランド名「一 hashime(ハシメ)」も、お祖父さまのお名前に由来しています。

もともとものづくりが好きで手先が器用だった小林さん。
地盤調査の会社に勤めながら、趣味でDIYをしたり、
ときどきお祖父さまに籠作りを教わることもあったそうです。

残念ながら、お祖父さまから直接箒づくりを学ぶことは叶いませんでしたが、
その存在は小林さんの中で大きな原点となり、改めてものづくりの楽しさを強く実感。

やがて会社を退職し、箒職人の道へ進むことを決意されます。
箒職人・山田次郎さんに師事し、約7年間の修行を経て2022年に独立。

小林さんの感性で彩られた工房の壁。道具とともに民藝や作家さんの絵、ショップカードが並び、眺めているだけで心が弾む空間です。

全くの異業種から飛び込んだ勇気と、長い修行をやり遂げた強い想い。
そして、その道を支え続けたご家族の存在が今の活動へとつながっています。

「職人になって、人間関係も大きく変わりましたね。奥さんからも“今の方がいきいきしてるね”ってよく言われます。」と笑顔で話される小林さん。

その姿は、お店を始めたばかりの私たちにとっても大きな励ましとなり、
なんだか背中を押していただいたような気持ちに。

やっぱり、自分の気持ちにはいつも素直でいたい。
楽しそうに作業される小林さんを見て、改めてそう思いました。


箒づくりの実演

この日は、長柄箒七玉の製作を実演してくださいました。

虫よけのために天日干しして乾燥させたホウキモロコシを
4時間ほど水に浸け、柔らかくしたものを一気に編み上げていきます。


私たちの質問に笑顔で答えながらも、手元はリズムよく、素早く正確。
一切の無駄がなく、その手捌きに思わず見とれてしまいます。

あっという間に一本の箒が出来上がりました。
「サイズにもよりますが、長柄や片手箒のような大物なら一日で5本ほど作れますよ。」

真ん中にある箒が今回作成してくださった長柄箒。取れたてのホウキモロコシでまだ青々としています。

簡単そうに作業されていらっしゃるのですが、とても細かい作業。
「大雑把な私は途中でキー!となってしまいそうです、、、そういうことはありませんか?」と聞いてみると

「嫌になることはないですね。大変な作業もありますけど、出来上がっていく過程が好きなので、
どの作業も楽しいです」と小林さん。

大変な作業も楽しい。
この言葉から小林さんが本当に箒づくりが好きなのが伝わってきます。

ちなみに、その「大変な作業」とはホウキモロコシの選別なのだとか。
特に小箒の場合は、穂先を一束ずつばらし、それをさらに「30センチ以上」「30センチ以下」とひたすら分けていく、、、
聞くだけで気の遠くなるような工程です!

「選別が作業の大半ですね。地道な作業なので、写真では大変さがなかなか伝わらないのが残念なんですが、、、」
と仰っていました。

小帚の選別。うう、確かに大変さが伝わりにくいです、、、。泣

さらに印象的だったのはこの言葉。
「美しいかどうか、バランスは常に意識しています。網み目にはその時の心の在り方やクセが出るんです。
職人同士なら、箒を見れば誰が作ったかすぐにわかりますよ。」

丁寧にそろった網目に小林さんの仕事へのまなざしを垣間見た気がしました。


手しごとに触れて

自然と向き合いながら、使いやすさと美しさを日々追求されている小林さん。
受け継がれた知恵を大切にしつつ、自由な感性で新しいことに挑戦されるお姿はとてもかっこよく、
ものづくりへの情熱を強く感じます。

実は小林さん、籐編みの職人さんでもあります。
巻きたいものに籐巻きを施すイベントや、欠けたガラスや陶器を籐でつなぐ「籐継ぎ」なども手がけられているんです。

特に籐継ぎは、異素材が出会うことで生まれる独特の美しさが魅力。
初めて拝見したとき、金継ぎ以外にこんな継ぎ方があったのか!と、とても感動したのを覚えています。

我が家のお皿も小林さんに継いでいただいたのですが、
再び毎日使う大切な一枚になりました。

右の皿が籐で巻かれた籐継ぎ、左は真鍮で継いだ鎹(かすがい)継ぎ

いつかKENOHIでも小林さんをお招きして、
そんな体験を皆さんと一緒に楽しめたらと思っています。

さて、小林さんが手がける美しい一hashimeの箒。
サイズ違いでいろいろ入荷しました。

見ているだけでうっとりするほどですが、掃き心地の良さも格別。
そして、ホウキモロコシの清々しい香りも魅力です。ぜひお店で確かめてみてくださいね。

現代の暮らしの中では箒を使う機会は少なくなりましたが、
電気を使わないことや、天然素材ならではの良さはたくさんあります。

箒のおすすめの使い方や、長く使うためのお手入れ方法も伺いましたので、
そのお話はまた次回にご紹介したいと思います。

一hashimeさんの工房外観

今回、実際に工房を訪れ、小林さんの手しごとに触れることで、
箒の魅力をより深く知ることができました。

快く迎えてくださった小林さん、貴重なお時間を本当にありがとうございました。

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